18年前、父の会社の扉を開けた。
長女を抱いて眠れない夜を過ごしていた28歳の春。アトツギとして戻った丸善工業は、正直に言えば沈みかけた船のようだった。
鉄骨一本で食いつないできた会社にもう仕事はほとんどなかった。戻ってきたばかりなのに廃業という二文字が事務所の空気の中に漂っていた。
でも諦めるには早すぎた。娘の寝顔を見るたびそう思った。
木造という新しい風
自分がこれまで積み重ねてきた経験を信じて木造事業を立ち上げた。幸いなことに、以前からのご縁がつながって、新築や大規模リフォームの仕事が舞い込んできた。
あの頃は夢中だった。設計事務所と工務店が一体になったスタイルに憧れて、新築をひたすら追いかけた時期もあった。お客様の人生の節目に立ち会える、その喜び。真っ白なキャンバスに理想の暮らしを描いていく、あの興奮。
けれど同時に気づいていた。新築だけが答えじゃない、と。
鉄骨が教えてくれたこと
一方で、父が守ってきた鉄骨事業を見捨てるわけにはいかなかった。
どうすれば再び輝けるのか。答えは、既製品にはない”こだわり”だった。
オーダーメイドガレージ。
それはガレージに情熱を注ぐ人たちの心に確実に響いた。
ニッチかもしれない。でも、その”ニッチ”こそが、誰かにとっての”全て”だった。愛車との時間、趣味に没頭する空間、仲間と語らう場所。そんな特別な居場所を、鉄骨で創り上げていく。
三つの輪が重なる場所
振り返ればすべてが計算通りだったわけじゃない。
【求められていること】【得意なこと】【やりたいこと】
この三つの円が重なる場所を手探りで探し続けた18年だった。
新築・リノベ・ガレージという三本の柱は、最初から見えていた道じゃない。栃木で”はたらく・くらす”を応援したいという想いに従って歩いてきたら、気づいたら今ここにいた。
これから育むもの
今、それぞれの事業の芽は確かに出ている。
「育みの家」で木造の可能性を広げ、「育みのガレージ」で鉄の温もりを伝える。どちらも、まだ若い苗だ。でも、根はしっかりと張っている。
これからどれだけ大きく育てられるだろう。
どれだけの家族の笑顔に出会えるだろう。
どれだけの「こだわり」をカタチにできるだろう。
長女はもう18歳になった。あの日、眠れない夜に抱いていた小さな命は今では自分の道を歩き始めている。
会社も、娘も、まだまだこれから。
楽しみで仕方ないよね。